多剤耐性アシネドバクターの恐怖
こんにちは。しがない薬剤師です。
多剤耐性アシネドバクター
悲しいニュースがありました。
鹿児島大病院:多剤耐性菌か4人死亡 患者15人から検出 - 毎日新聞
多剤耐性菌に院内感染で患者複数が死亡か 鹿児島大病院:朝日新聞デジタル
8人死亡、院内感染か…多剤耐性菌検出 鹿児島大病院で - 産経WEST
MBCニュース | 鹿大病院 入院患者 多剤耐性菌に感染後8人死亡
すべて同じニュースについてです。
アシネドバクターとは
- グラム陰性桿菌
- 土壌や河川水に生息する環境菌
- 人の皮膚等にも存在するが,通常は無害
- 易感染状態の患者においてのみ,感染の原因となる
多剤耐性アシネドバクター感染症とは
- 厚生労働省の定義によると
「広域β-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロンの3系統の薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属菌による感染症」
- MIC値として次の3つをすべて満たした場合
イミペネム16≦,アミカシン32≦,シプロフロキサシン4≦
- このアシネドバクターによる感染症患者が出た場合は厚生労働省への届け出が求められています。
- 肺炎などの呼吸器感染症、尿路感染症、手術部位や外傷部位の感染症、カテーテル関連血流感染症、敗血症、髄膜炎、皮膚、粘膜面、軟部組織、眼などに多彩な感染症を起こすとされています。
ニュースに戻ると
患者はICU入院中ということで易感染状態であったと考えられます。
スタッフを介した接触感染として伝播したことが強く疑われます。
実際に同種の菌が患者間を伝播してしまうことはよくあります。(あってはいけないことではありますが)
大学病院なので,ICT・ASTがしっかり機能しているはずなのにこういった事態が起こってしまうのは悲しことです。
アシネドバクターは環境にしぶとく生き残るという特徴があります。
そのため,感染患者がいなくなっても,また発生することがあるでしょう。
ICUを閉鎖して全体を総クリーニングする必要もあったかもしれません。
そんな簡単な決断ではないでしょう。大学病院のICUを閉鎖させるということは。。。。
ICTとしては
まずは大原則としてスタンダードプリコーションの徹底でしょう。
スタンダートプリコーションとは?
スタンダードプリコーション(Standard Precaution:標準予防策)は「すべての血液,体液,分泌物,汗以外の分泌物,損傷のある皮膚・粘膜は伝染性の感染性病原体を含む可能性がある」という原則に基づきます。
感染症病原体の存在が疑われるかどうかにかかわらず,すべての人に分け隔てなく行う感染予防策のことです。
何よりも大切なことは手指消毒ではないでしょうか。
簡単なようではありますが,多忙な業務の中,いちいち手指消毒してられないよ,手袋替えられないよというのが現場の本音です。
あなたのその手で自分の子供の触れられますかって感じですが。
ASTとしては
多剤耐性アシネドバクターには,カルバペネムとスルバクタムが有効であるとされる報告が多いです。
場合によってはミノサイクリンやホスホマイシンが有効となる場合もあるようです。
細菌培養2セット採取後に感受性と移行性を考慮して抗菌薬を選択していくほかないでしょう。
ただ,抗菌薬はあくまで補助であって,宿主である患者の免疫能に依るところが大きいとは思います。
ましてや,アシネドバクターが感染する易感染状態の患者の回復力がどこまであるのか。
おわりに
多剤耐性アシネドバクターだけでなく,多剤耐性緑膿菌,バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌と様々な耐性感染症が増えてきています。
自分の施設はまだまだ関係ないと思わすに,発生したらどうするか,考え共有しておくことが大切だと感じます。