タミフルの添付文書改訂
みなさんこんにちは。しがない薬剤師です。
タミフルの添付文書改訂
先月のニュースにはなりますが,
抗インフルエンザウイルス薬のタミフルの添付文書が2018年8月に改訂されました。
非常に大切な文章だったので,まるまる転記させていただきます。
ご存知の方は飛ばしてください。
改定前
【警告】
10歳以上の未成年の患者においては,因果関係は不明であるものの,本剤の服用後に異常行動を発現し,転落等の事故に至った例が報告されている。このため,この年代の患者には,合併症,既往歴等からハイリスク患者と判断され場合を除いては,原則として本剤の使用を差し控えること。
また,小児,未成年者については,万が一の事故を防止するために予防的な対応として,本剤による治療が開始された後は,①異常行動の発現のおそれがあること,②自宅において療養を行う場合,少なくとも2日間,保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対して説明を行うこと。
なお,インフルエンザ脳症等によっても同様の症状が現れるとの報告があるので,上記と同様の説明を行うこと。
この内容がまるまる削除されました。
新たな文章で,重要な基本的注意に新たな文言が追加されました。
改定後
重要な基本的注意
抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無又は種類にかかわらず,インフルエンザ罹患時には,異常行動を発現した例が報告されている。
異常行動の予防的な対応として,①異常行動の発現のおそれがあること,②自宅において療養を行う場合,少なくとも発熱から2日間,保護者等は転落等の事故に対する防止対策を講じること,について患者・家族に対し説明を行うこと。
なお,転落等の事故に至るおそれのある重度の異常行動については,就学以降の小児・未成年者の男性で多いこと,発熱から2日間以内に発現することが多いこと,が知られている。
上記内容が追加されました。
この変更は
「厚生労働省における薬事・食品衛生審議会 医薬品等の安全対策部会の検討」
を経て結論づけられた内容に基づいて変更しているようです。
そのため,タミフル製造販売元の中外製薬の一存ではないことが確認できます。
大きな変更点としては,
- 【警告】欄の記載ではなく,重要な基本的注意の欄への記載となったこと。
- 投与の年齢制限がなくなったこと。
- 他の抗インフルエンザウイルス薬(リレンザ・イナビル・ラピアクタ・ゾフルーザ)でも同様の記載が追加となっていること。
タミフルによる異常行動が大きくニュースに取り上げられたのは2007年ごろ,約10年前のこととなります。
当時から,薬剤が本当に関係しているのかと疑問視はされていましたが,
今回,大きく,薬剤の影響とはいえないと示されたように感じます。
なぜ,このことは大きくニュースで報じないのか少々疑問に感じますが。
今までは抗インフルエンザウイルス薬の中で
タミフルのみが年齢制限がありましたが,それもなくなりました。
今後,タミフルの処方は増えるのでしょうか。
今シーズンからは,内服では大きなライバルとなりうる,
ゾフルーザが本格的に処方されることになると予測されます。
そのため,ゾフルーザしだいでは,タミフルはせっかく年齢制限がなくなっても処方は増えないかもしれませんね。
タミフルにあってゾフルーザにない点は?
ズバリ 予防投与への適応です。
吸入の2剤にも予防投与の適応があります。
施設や病院で,周囲の人がインフルエンザ罹患した場合,吸入をすることが難しい高齢者等には,予防投与を行うにはタミフルが適していると考えます。
おわりに
冬が近づいてきます。まずは,インフルエンザにならないように一次予防が大切です。
ゾフルーザどれぐらい出るんだろう。
タミフル添付文書より引用
高カルシウム血症
こんにちは。しがない薬剤師です。
高カルシウム血症と治療法
あまり出会うことがありませんが,なかなかこいつは厄介です。
血清カルシム値の算出方法
血清カルシウムイオンは,血清アルブミンの影響を受けるため,
Payneの式を用いて補正する必要があります。
Payneの式
血清補正カルシウム値(mg/dL)
=血清総カルシウム値(mg/dL)+[4ー血清アルミンブミン値(g/dL)]
自分の施設でのカルシウムの測定値が
補正カルシウム値か,総カルシウム値なのかは知っておきたいですね。
(おそらくほとんどが,総カルシウム値だとは思いますが。)
高カルシウム血症の症状は
多尿,便秘,食欲不振,高カルシウム尿症などがあります。
また,筋力の低下,錯乱,せん妄,昏睡にいたる場合もあります。
高カルシウム血症の原因は
副甲状腺機能亢進症,ビタミンD中毒,悪性腫瘍などがあげられます。
カルシウム製剤(カルシウム関係)の内服や
ビタミンD3製剤の内服中の患者で生じることがあります。
高齢者 → 骨粗鬆症 → ビタミンD3製剤 → 高カルシウム血症
副作用が少ない薬だと油断していると見逃してしまうので
薬剤師としては注意の必要なポイントです。
高齢者,腎機能低下例などでは要注意です。
高カルシウム血症の治療方法は
- 生理食塩水で補液(脱水によるものの場合)
- カルシトニン製剤の投与
- ビスホスホネート製剤の投与
カルシトニン製剤は,腎臓でのカルシウムの排泄を促進し,
また破骨細胞による骨吸収を低下させることで血清カルシウム値を低下させます。
エルシトニン注40単位を1日2回の投与(筋注または点滴静注)
カルシウム値の変動により適宜増減します。
ビスホスホネート製剤は,破骨細胞による骨吸収を低下させることで,血清カルシウム値を低下させます。
ゾレドロン酸は「悪性腫瘍による高カルシウム血症」に対して適応を有しており,
1回4mgを生食100mLに希釈し15分以上かけて投与することとされます。
基本的には4週間に1回,場合によっては1週間に1回投与まで,投与回数を増やすことがあります。
治療方法に,内服薬がありません。
おわりに
高カルシウム血症は様々な要因で引き起こされます。
高齢者やがん患者にせん妄が生じた場合,とても気づきにくいです。
トラゾドンやクエチアピンといった薬剤を投与してもなかなか改善しない。
私は実際にこのような症例を経験しましたが,けっこう困りました。
Ca値測定の提案もなかなか思いつかず,クエチアピン増量にストップもかけれない状況ませんでした。
薬剤が原因の場合は処方カスケードにおちいってしまいがちです。
処方カスケードを止めることは最近話題になっている
ポリファーマシーを防ぐための薬剤師の大きな役割です。
悪性腫瘍による骨メタの患者に,ゾレドロン酸を,歯が悪い等々の理由で投与できない場合,治療は非常に難しくなります。
毎日エルシトニンを投与するのは,なかなか現実的ではありません。
エルシトニンによって,高カルシウム血症が落ち着いても,退院後のことも考えなければいけないからです。
内服薬が開発されたりしないかなと思う日々です。
高カリウム血症とGI療法
みなさんこんにちは。しがない薬剤師です。
高カリウム血症とGI療法
「5%ブドウ糖500mLにインスリン5単位混注したものを1セット」
これを3セット投与。適宜血糖値も測定してください。
このような指示を見たとき,
最初は正直恥ずかしながら,
先生,何目的なんだろうと思ってました。
教科書では(国試でも)このような治療方法は習いませんでした。(言い訳)
これが,GI療法だとは知らずに。
勉強しました。
高カリウム血症の病態は
一般的に,神経筋症状(痙攣・反射消失)や筋力低下,
消化器症状(悪心・嘔吐,下痢等)を引き起こすとされます。
重症例では,心室細動または心停止を引き起こす心毒性が生じる恐れがあります。
高カリウム血症の原因は
カリウム摂取量の増加・排泄の低下によります。
特にカリウムの排泄低下が問題となります。
- ARBやカリウム保持性利尿薬といった薬剤
- NSAIDsや多くの薬剤・病態による急性の腎害
- 慢性の腎障害
- 手術等の細胞障害
と様々な原因があげられます。
では本題に
GI療法とは
Glucose-Insulin療法のことで,その名の通りグルコースとインスリンを投与します。
なぜ,このセットで血清カリウム値を低下させることができるのか。
それは,インスリンの働きによって細胞内へのK移行を促進させるからです。
インスリンは細胞膜のNa-K-ATPaseを活性化させます。
ブドウ糖が細胞内に取り込まれる際に,カリウムも一緒に細胞内へ移動します。
この作用を利用して血清カリウム値を下げます。
インスリンだけ投与すると,当然,血中ブドウ糖濃度も低下(低血糖)してしまうために,予防的にブドウ糖を投与することとなります。
投与方法は
- 50%Glu50mL+インスリン10単位を静注
- 50%Glu40mL+インスリン5単位を5~10分かけて点滴
- 10%Glu500mL+インスリン10単位を30~60分で点滴
- 50%Glu200mL+インスリン20単位を5~6時間かけて点滴
- 5%Glu500mL or 10%Glu250mL+インスリン5~10単位を持続投与
だいたいブドウ糖25gにインスリン5単位を基準にして考えてよさそう。
投与速度や量は血糖値,K値を測定しながら調節します。
注意点としては,第一に低血糖に注意。
ほぼ全例で低血糖となると思っていてもいいです。
それぐらいの用心が必要。
個人的な注意点としては速攻性が低いということ。
高カリウム血症の補正に急を要する患者への
選択肢としての提案は微妙です。
おわりに
みなさん,高カリウム血症への治療法はいくつ思いつきますか。
(透析,ポリスチレンスルホン酸カルシウムの内服,カルシウム製剤の静注……)
他の方法も今後勉強して紹介していきたいと思います。
病院薬剤師にオススメ勉強本:薬剤師レジデントマニュアル・薬剤師レジデントの鉄則
こんにちは。しがない薬剤師です。
病院薬剤師の勉強方法といえば,
同期や先輩から聞く・勉強会に行く・インターネットで調べる・本を読む…..
などなど,いろいろな方法があるとは思います。
全ての方法で学んだことを,みなさんと共有できたらと考えております!
そんな中で今回はこちら
病院薬剤師にオススメ勉強本の紹介
ではさっそく
薬剤師レジデントマニュアル
薬剤師レジデントの鉄則
(定番過ぎてすみません。初めての本の紹介なので。。。)
こんな方にオススメ
- 私のような病院薬剤師1~3年目のあなた
- 薬剤師経験はあっても病院薬剤師に初挑戦のあなた
- いざ勉強を始めようと思ったけど,何から手をつければいいのか・どんな本を買えばいいのか悩んでるあなた
- 日々の業務での疑問点を解決するような勉強をするだけでいいのか?と悩んだあなた
- まさに向上心が出てきたあなた
私自身も,
何から勉強すればいいかわからなかったときに。
新しく自分で課題を見つけて勉強していこうと思ったときに。
まずは網羅的な内容の本をと思って,最初に購入した勉強本でした。
どんな本
どちらも「調剤」,「注射」,「薬物療法を理解するための基礎知識」といった一般的な分野から,各診療科「呼吸器疾患」・「神経疾患」や「眼科疾患」・「緩和」と広範囲な分野の基礎知識が身につけられる本です。
各分野・診療科における一般的な疾患とそれに関連する薬物療法について記載されています。
何よりも内容がエビデンスに基づいています。
ほぼ全ての内容についてが,ガイドランや論文,有名な書籍と引用元がしっかり明記されていることが,この本のオススメポイントです。
あまり知識のなかったとき,ガイドラインの存在もよくわかってなかった自分にはとても助かりました。
さらに興味を持てば,記載されている,ガイドラインを読む・書籍を購入することでさらに勉強することもできました。
これらの本の内容とガイドラインの内容を頭に入れておけば,目の前の患者がどういった理由で,どういった流れで治療されているのかが理解しやすくなりました。
簡単な比較として
「薬剤師レジデントマニュアル」の方が情報量が多いです。
各疾患の疫学・病態から記載されています。
意外と役に立つ,巻末付録資料があります。
(これまでに出されたイエローレター・ブルーレターのリストや腎機能低下時に注意すべき薬剤とその投与量リストなどなど)
ネットによく書いてあるウリはポケットサイズだということです。
(本当にポケットに入れて持ち歩いている薬剤師なんているのかな)
「薬剤師レジデントの鉄則」は薬剤師レジデントマニュアルで取り上げられている内容から特に重要な点にしぼって掘り下げた内容になっています。
Q&A方式で書かれています。また,ここだけは押さえよう「鉄則」ポイントが記載されており,レジデントマニュアルと比べると読みやすい印象です。
ポケットには絶対に入りません。(B5サイズ)
どちらかとはいわず,2冊両方が絶対にオススメです。
ある程度の業務になれた後に感じるのは,自分の病院で扱われる処方箋・診療科の知識は一般的なものなのか。
そしてその知識しか身についていない,知識が偏っているのではといった悩み。
そんな時にこの2冊の本が非常に役に立ちました。
全分野を広く学んで興味のもった分野について追加で勉強して掘り下げていけばいいと思います。
各診療科で約束のように処方されていた薬剤たちの謎が少しでもとけるかもしれません。
自分の得意・不得意な分野の把握にもつながります。
勉強会も基礎知識だけでも持っていれば,話を聞いたときの理解度がかなり変わってきます。
おわりに
読めば読むほどレジデント制度の導入されている病院で働いてみたかったなと感じました。
私の住処の近くでは,残念ながらレジデントがある病院はありませんでした。
レジデントで学んだ3年目薬剤師と,今の自分。
どれほどの知識の差がつけられているのだろうと考えるだけでふるえます。
そのため勉強の日々ですね。
「薬剤師レジデントマニュアル」「薬剤師レジデントの鉄則」
どちらもオススメの書籍です。つたない書籍紹介ですみません。少しでも勉強書籍選びの参考になればと思います。
食欲不振に使われる薬
こんにちは。しがない薬剤師です。
毎日暑いです。夏バテで食欲が下がってしまいますね。
患者にも食欲不振を訴えることが多いような気がします。
食欲不振に効く薬
よく高齢者では入院後の食欲不振に悩まされる場合があります。
入院理由の原疾患は,めどがたった・治療が行われたのに
食欲不振のため,エネルギーが少ない,リハビリがすすまない,最悪の場合CVから離脱できない,そんなことがしばしば起こります。
すぐに薬剤に頼るべきではないのかもしれませんが,食欲不振に対して薬剤が処方されることはよくあります。
また,医師から食欲不振の患者に何を処方したらいいかな?なんて問い合わせも。
みなさん,どういった方法が思いつくでしょうか
私もがんばって勉強しました。
薬剤で食欲不振に
- プリンペラン・ナウゼリン・ガナトン
ドパミンD2受容体に拮抗することにより,アセチルコリンの遊離を促し,消化管運動を促進させる効果があります。
効能・効果としても「食欲不振」を有する薬剤です。
やはり一番に思いつきますかね。
- 六君子湯
漢方では六君子湯でしょうか。十全大補湯・補中益気湯も候補に挙がります。
六君子湯は胃排出促進作用に加えて,食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させる働きがあると報告されています。
注意点としては,食欲が下がっている患者が漢方をちゃんと飲んでくれるのか。
これにつきます。。。
- リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ
完全に適応外ですが。
アルツハイマー型認知症の進行抑制に本来使用される薬剤です。
ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用により,アセチルコリンの分解を減らしアルツハイマーに効果を発揮しますが,
ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用により,グレリンの分解を防ぐともされています。
そのため,六君子湯と類似の効果を発揮することが予想されます。
アルツハイマーで活気がなかった高齢者に活気を取り戻し,食欲も増進させる一度で二度おいしい適な薬剤です。
貼付剤という点が役に立つこともあります。
しかし,消化器症状等の副作用症状は有名です。
副作用発現を防ぐため,増量には細かい用量設定がある薬剤であり,注意が必要です。
- オランザピン
こちらも適応外処方です。
MARTAに分類され,基本的には統合失調症,双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善に用いられます。
つい最近,抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)への適応が追加されたことが記憶に新しい薬剤です。
マルチレセプターに作用するなか,食欲亢進の発現機序としては,セロトニン(5-HT2c)やヒスタミン(H1)レセプターの拮抗作用や,グレリンとの関連などが考えられています。
一方で高血糖・低血糖といった血糖バランスを大きく崩す恐れがあります。
糖尿病の患者には当然ながら禁忌,そうでもない患者にも注意が必要です。
薬剤以外の対応方法もしっかりチェック
- 便秘
食欲不振は便秘が原因となっている場合も意外と多いです。
便秘→悪心→食事も入らない
患者の便秘の有無もチェックし,必要におうじて緩下剤を。
- 歯・かみ合わせ・入れ歯があってない
以外と見落としがちですが,よくあります。
口腔ケアとともに歯科受診により改善する場合があります。
- 味覚異常
亜鉛欠乏などにより,食事に味を感じず,食欲不振となっていることがあります。
特にTPNから離脱したばかりの患者,経口摂取少なく栄養バランスが少ない患者などにおこります。
亜鉛濃度の測定とともに,亜鉛補充をすればすぐに改善します。
- 食事制限
降圧剤内服中・血圧が高いといった理由で一律に減塩食となっていている場合があります。
減塩食では美味しくないから食べない患者も。
状態によっては減塩食より,食事摂取を優先するべきですよね。
糖尿病の既往により,間食は許されていないとき。
意外と,患者家族が嗜好食を持ち込んだらすんなり食べるようになったということもあります。
- 環境づくり
デイルームのような周りの患者がみんな食事しているという環境に連れて行くと,周りがおいしそうに食べていると食べたくなることもあります。
このように薬剤以外でもたくさんの対応方法があげられます。
おわりに
薬剤師だからといってすべてを薬剤で解決しようとしなくても良いと思います。
しっかり患者観察が大切です。
今日も長々とお付き合いいただきありがとうございました。